ゴジラS.Pに登場する現代技術についての覚え書き

2030年を舞台とするSFアニメであるゴジラS.Pでは、現実とは異なる現象を説明するためのSFギミックであるアーキタイプに由来する技術だけでなく、現実の現代技術の延長線上にある技術も多数描写される。それらの2021年時点での現実の状況との関係を概観する(第7話時点の情報に基づく)。

3Dスキャン

即席の鏑矢を作るシーンにおいてスマホによる測定でペットボトルの3次元モデルを構成している。現在スマホのセンサ性能の向上によりさかんに研究開発が行われている分野で、実サービスとしては https://www.rest-ar.com/ などがあるようだ(ただし主要な計算はクラウドで行っているかもしれない)。ペットボトルのような透明物体はデプス(物体表面のセンサからの距離)の値が信用できないため不透明物体に比べてだいぶ精度が落ちるが、需要は大きいはずなので2030年に透明物体も高精度でスキャンできる技術が普及している公算は大きい。

音響シミュレーション

こちらも即席の鏑矢を作るシーンで登場。ペットボトルのそこそこ正確な3Dモデルが得られていれば、最も大きい周波数成分が大雑把に分かればいいくらいの音響シミュレーションは現在のスマホの計算能力でも十分可能と思われる。どちらかというと自然言語でのごく簡単な発話でシミュレーション条件を正確に指定できるNaratakeがすごいシーンである。劇中では穴の位置や数の最適化も行っており、これも現実だと自分でそこそこ長いスクリプトを書く羽目になると思われる。

アーキタイプの構造探索

第4話でユンとメイがアーキタイプをどうやって発見したかを議論するシーンがある(「アーキタイプはどんな分子とも似てない」というユンの発言から、どうやら構造は公表されているようだ)。分子構造を決めたときにその性質をシミュレートするのはある程度(あくまである程度)完成された技術だが、探索空間が膨大でかつ構造と性質の対応が複雑なことから、欲しい性質を持つ分子構造を自動的に生成するのは極めて困難だというのはその通りである。文字列を生成する機械学習モデルを使って化学構造を表す文字列を直接生成するという傍目にはやけくそみたいな研究も存在する。もちろん有機化合物において官能基を固定して骨格だけ変えるというようなもっと素直な手法も存在するが、一般には難しい問題であることに変わりはない。ハッシュ関数の原像探索問題の難しさからの流れで視聴者に難しさを納得させるために説明を端折っているという理解が十分可能な範疇の描写であろう(ちゃんと「てがかりなしでみつけるには」という留保もついている)。なお、既存のシミュレーションソフトウェアに何を入力してもエネルギー保存則を破るような結果など出てこないのではという説はあるが、「全てシュミレーション(ママ)し尽くさなければならない」と表示されているのみでシミュレーション手法を指定しているわけではないので、李博士らの研究はアーキタイプが満たすべき抽象的な性質を議論しておりそれを満たすかの確認のために現実にはないなんらかのシミュレーション手法が必要なのだろうといった逃げ道がありうる。実際エネルギー保存則が破られるわけはないのである程度無茶な嘘は必須である。

ストレージが2PBあるノートPC

第1話で登場したメイのノートPCのストレージ容量表示から。現在の標準的なノートPCのSSD容量は200GB程度と考えると10年で10倍になっていることになる。どちらかというと予測というより願望っぽいが、適当に探してきたグラフによるとSSDの価格容量比は大雑把に5年で3倍に改善しているようなので10年後に10倍というのはそれなりに妥当な数字かもしれない。 10000倍だわ。完全に願望ですね。

人間が搭乗可能な2足歩行ロボット

ボストンダイナミクスのAtlasなどかなり敏捷な動作が可能な2足歩行ロボットは既に実現されているが、ジェットジャガーのサイズに加えて人間が搭乗したときの重量を考えると剛性やアクチュエータの出力への要求が大きくなり、機械的な部分でかなり厳しそうに見える(よく知らないので適当)。なお、第5話で足を車輪駆動に取り換えたあと制御を遺伝的アルゴリズムで学習している。ロボット屋さんがこのようなシチュエーションで実際に遺伝的アルゴリズムを使うかは知らないが、車輪のモデルを陽に扱った制御システムを作っている時間的余裕がないので全体の物理シミュレーション(現実のソフトウェアだとGazeboとか)さえできればあとはend-to-endで学習ができるような手法を選択するというのはそれなりに理に適っているように見える。

Naratake ENGINE

これが現代基準ならアーキタイプ関連を除けば一番のオーバーテクノロジーで、2030年にこれほど柔軟な応答ができる対話エージェントが完成している可能性は非常に低そうだ。話の都合でこのようになっているのだと思うが、このあたりの技術の進歩にもアーキタイプが関わっているみたいな大風呂敷が広げられる可能性もゼロではないかもしれない。